赤十字看護教育・活動に関する研究
赤十字看護教育・活動に関する研究
赤十字看護教育・活動に関する30年ぶりのフォローアップ研究
研究プロジェクトメンバー
スウェーデン赤十字大学
Jan Nilsson Ann Gardulf
日本赤十字看護大学
武井麻子 東浦洋 川原由佳里 佐々木幾美 本庄恵子 吉田みつ子 川嶋みどり 濱田悦子
はじめに
本学は、平成20年5月、スウェーデン赤十字大学との間で、看護教育及び研究・開発に関する協力関係促進を目的とする覚書を締結しました。まず最初の共同研究を行うにあたり、両大学は各国赤十字社活動の基本的データ、とりわけ赤十字の看護組織に関する情報が不足しているのではないかと考えました。幸い、赤十字社連盟(現在の国際赤十字・赤新月社連盟)が昭和54年に同種の調査を行っていることが判明し、30年ぶりのフォローアップ調査を実施することにしました。
この研究プロジェクトの目的は、①各国赤十字社における看護師の役割について、30年前の調査結果と比較すること、②看護教育機関をもつ社を特定し、これらの施設を調査し、赤十字教育施設のパートナーシップの構築を図るとともに、優れた赤十字看護実践モデルの共有のための基盤を創ることにあります。
本報告書は、この第一の目的に関する部分について、まとめたものです。
この研究は、日本赤十字学園の平成21年度「赤十字と看護・介護に関する研究」助成金を得て行われました。本プロジェクトは、ジュネーブの国際赤十字・赤新月社連盟の協力を得て、本学とスウェーデン赤十字大学とが緊密な連絡をとりながら進めてきました。
平成21年6月には、本学で開催された第10回日本赤十字看護学会において、スウェーデン赤十字大学の2人の共同研究者も参加して、本プロジェクトについての研究発表を行いました。また、平成21年11月と平成22年2月には本学の教員がストックホルムのスウェーデン赤十字大学を訪問、報告書原案作成のための協議を行い、その後もストックホルムと東京間でインターネット会議を重ねてきました。今年3月には、ジュネーブにおいて、国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、世界保健機関、国際看護協会に対して、本研究の概要について報告を行いました。
平成22年度は、看護教育機関をもつ社を特定し、これらの施設に対する第2次調査を行います。
この遠く隔たった二つの国の研究者たちが初めて協力して行った国際研究に多大なご支援・ご協力をいただいた日本赤十字学園本部をはじめ関係機関の方々に、深く感謝の意を表したいと思います。
研究概要
目的
赤十字運動は、その歴史の始まりから、弱者に対する支援活動を行ってきた。看護師は専門職として存在して以来、地域社会における公衆衛生上の脅威に進んで立ち向かってきている。赤十字思想の誕生から150年を経た今日もなお、最も弱い立場にある人々の健康とケアは、重要な関心事項である
国際赤十字・赤新月社連盟(以下「連盟」とする)は、「2020年戦略」などに基づいて世界の医療保健状況の改善に向けて活動を展開している。1979年、連盟は看護師教育、看護・地域保健、災害看護、看護と血液事業、赤十字の諸原則、ジュネーブ条約、看護師の能力の活用を含む看護活動について、加盟全社の調査を実施した。
本研究の目的は、(i)連盟が1979年に実施した調査の30年ぶりのフォローアップを実施し、各国赤十字社において看護師がどのように活用されているかについて比較をすること、(ii)看護教育機関をもつ社を特定し、これらの施設に質問紙を送付し、国連ミレニアム開発目標(MDGs)や連盟のグローバル・アジェンダに対する看護教育の貢献について明らかにすることである。この報告書は、この研究プロジェクトの第一の目的に関するものである。
方法
1979年の質問紙をもとに、各社の保健医療の現状を反映させるために若干の修正を加えた。例えば、質問項目として、HIVエイズなどを追加した。質問紙は全186社に送付した。質問紙は連盟の公用語4ヵ国語に翻訳し、2回の督促の結果、186社中84社(45.2%)の回答を得た。1979年の調査に回答した79社のうち、43社(54.4%)が2009年の調査に回答した。
結果および考察
大多数の赤十字社(76%)が看護師の能力の活用は重要であると認識していることが示された。50%以上の赤十字社が、看護師の能力は連盟の4つのコアである人道の価値、災害対策、災害対応、コミュニティの健康とケアにとって、とくに重要であると考えていた。しかしながら、その使命を達成するうえで、看護師の能力は重要でないと判断している社があることも、明らかになった。さらに、今回の調査により、30年前とほぼ同数の看護教育機関が世界には存在するのではないかと考えられること、さらに、看護師の教育レベルが高度化しており、博士課程を有する社があることも明らかになった。ほとんどの赤十字社は看護師が人道ニーズ及びコミュニティの保健医療上の脅威に立ち向かう上で、重要であると考えている。看護師の資質のさらなる活用は、2020年戦略の目標達成のための手段の一つとして考慮されるべきであると考える。
Nurses’ competence within the Red Cross and Red Crescent Movement
~ A 30-year follow-up on Red Cross and Red Crescent Nursing Education and Activities Responding to Local and Global Vulnerability ~
Executive Summary
Background
From its very inception, the Red Cross and Red Crescent Movement has worked towards assisting vulnerable people, and as long as their profession has existed, nurses have been ready to respond to public health threats in the community. Today, more than 150 years after the birth of the Red Cross, health and care for the most vulnerable is still a key concern. The International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies (International Federation) demonstrates its responsibility towards improving the global health situation through its guiding documents such as Strategy 2020. In 1979, the International Federation conducted a nursing survey asking all member National Societies about their nursing activities, including e.g. training of nurses, nursing and community health, nursing and disaster situations, nursing and blood transfusions, Red Cross Principles and the Geneva Conventions, and utilization of nurses’ competence within the National Society.
Aims
The aims of the research project were: (i) to perform a 30-year follow-up of the International Federation’s 1979 data and to compare the results in order to investigate to what extent nurses’ competences are utilized within the Red Cross/Red Crescent Societies and, (ii) to identify National Societies who are running nursing education programmes and, by sending a questionnaire to these teaching institutions, investigate in what way and to what extent the different nursing education programmes contribute to the MDGs and the International Federation’s Global Agenda. This report covers the first aim of the research project.
Material and method
The questionnaire from 1979 was slightly adapted to reflect the current health situation of the National Societies; e.g. questions about HIV/AIDS were added and sent to all 186 National Societies. The questionnaire was translated into all four of the International Federation’s official languages. After two reminders, 84/186 replies were received, giving a response rate of 45.2%. Among the 79 National Societies that responded to the 1979 survey, 43 (54.4%) responded to the 2009 survey.
Results
The overall results show that nurses’ competence is regarded as important by a majority (76%) of the National Societies. More than 50% of the National Societies consider nurses’ competence to be specifically important for the International Federation’s four core areas: humanitarian values, disaster preparedness, disaster response, and health and care in the community. However, as identified within the study, some National Societies do not consider nurses’ competence important in achieving their mission. Moreover, the survey demonstrates that there are approximately the same number of nursing education institutions throughout the world today, as compared with 30 years ago. However, at some institutions a higher level of education (up to PhD) is now offered.
Concluding remarks
Most National Societies consider that nurses are important in responding to humanitarian needs and health threats in the community. A further utilization of nurses’ competence should be considered as one vehicle to reach the goals set for Strategy 2020.