老年看護学領域
老年看護学領域 概要
生活モデルを通して高齢者ケアの可能性について学ぶ
老年期に関する国内学の看護学及び他領域の諸理論をもとに、高齢者の生きてきた時代や社会的背景を含めて全体論的視点に立った生活モデルを通して高齢者看護の可能性について学びます。研究については、複雑な健康問題を抱える高齢者やその家族が自らの価値観や信念に基づきより健康的で質の高い生活がおくれるための看護援助について、国内外の研究文献のクリティークを行い、各自でテーマを絞って探求を深めていきます。
研究指導教員
田中 孝美
日本赤十字看護大学 教授(老年看護学)
日本赤十字看護大学大学院老年看護学領域では、高齢者とその家族の多様性と独自性を尊重し、健やかな生命活動と暮らしの実現に向けて、実践と研究を交差させながら多角的に看護を探求しています。
私は、総合病院での臨床看護や訪問看護にたずさわるなかで、たとえ難しい状況にあっても、その人らしく今その時を大切に生きる高齢者に多く出会い、心を動かされてきました。以来、ケアの本質を改めて問い直したい、当事者の生活世界について理解を深めたい、優れたケアの現象を探求しその原理を見出したいと考えて研究を重ねています。
高齢者とその家族への看護を一度立ち止まって考えたい方、エビデンスをもとに高齢者ケアの知識と技術を高めたい方、優れたケアの開発や効果を検証したい方など、ご自身の課題認識を出発点とした学修を大切にしている本学で学んでみませんか。
住谷 ゆかり
日本赤十字看護大学 准教授(老年看護学)
私は、日々煩忙な業務に追われる中で、一人ひとりの高齢者が歩んできた人生を想像しながらケアを考えていくことの難しさを感じ、老年看護学を探求してみたいと思うようになりました。
現在は、急性期病院での臨床経験が動機となり、高齢者に対する身体拘束の廃止に向けた看護管理実践や、慢性疾患をもつ高齢者へのセルフケア支援などに関する研究に取り組んでおります。
経験豊かな高齢者への看護を考えていくことは容易ではありませんが、ケアがケアとして届いたのではないかと、高齢者の反応をとおして感じられる瞬間が必ずあります。そのような瞬間を丁寧に分析しながら、老年看護学としての知を集積してきたいと思っております。共に学び、考えていける仲間をお待ちしております。
清田 明美
日本赤十字看護大学 准教授(老年看護学)
私は、臨床経験の中で人生豊かな高齢者の生き方に触れる機会がたくさんありました。ケアをする身でありながら高齢者から多くの学びや癒しをもいただいてきたように思います。みなさんも同じような経験をされている方は多いのではないかと思います。
相互関係は、ケアを受ける者にとってもケアする者にとって重要なものです。これは高齢者にとっては安楽にも生活意欲の向上にもつながり、看護師にとってはよりよいケアの提供につながるのではないかと思います。特に、在宅支援に携わっていたときは、高齢者やそのご家族との関わりを通して、病や機能障害を持ちながらも人が幸せに暮らしていくことの意味や看護の役割について考えされられました。
高齢者人口はまだまだ増加していきます。病院の中だけでなく、地域社会全体で支えていくことが求められ、看護の場も広がっています。高齢者が最後まで自分らしく生きていくために、高齢者にとってのケアについて皆様と一緒に考えることができればと考えています。
松本 佐知子
日本赤十字看護大学 准教授(老年看護学)
私は、老人看護専門看護師として、療養病床や高齢者ケア施設で勤務し、様々な健康状態と生活状況にある高齢者に関わってきました。経験を積むにつれ、その人のかけがえのない人生を亡くなるその日まで継続できるよう、長期にわたって支える仕組みが作れないか、と考えるようになりました。
知り合いの研究者に相談するなかで、高齢者ケア施設における終末期ケアの介入研究に関わることになり、研究がケアの質を向上させていく様を目の当たりにしました。この経験をきっかけに、利用可能な最新・最良のエビデンスを、高齢者おひとりおひとりの状況と統合して、最善のケアを目指す活動(EBP; Evidence Based Practice)と、高齢者ケア施設での質改善活動(QI; Quality Improvement)にも、取り組んでいます。
老年看護学領域での高度実践看護に関心のある方、新たなケアにチャレンジしてみたい方、私たちと一緒に学んでみませんか。
領域の特色
老年看護学領域のカリキュラムの紹介
修士課程
老年看護学領域では、1年前期に老年看護学に関する理論に関する科目、高齢者やその家族への看護アセスメントに関する科目を学び、後期に倫理的課題も含めた看護実践に関する科目、そして高齢者に関わる政策・制度に関する科目について学びます。また、演習については、認知症の高齢者とその家族への看護に関する科目、老年期に頻度の高い疾患で慢性期にある高齢者とその家族への看護に関する科目、老年期に頻度の高い疾患に関する医学系科目の3科目があります。その他に、看護研究に関する科目が3科目あり、最終的に修士論文を提出して修了となります。CNSコースについては、平成24年に老人看護専門看護師の26単位教育課程が認定され、平成27年より38単位の教育課程に移行しております。
博士後期課程
博士後期課程において、1年次の「老年看護学特論」で自らの看護実践を踏まえ国内外の老年看護学の動向と課題を探求していく中で自らの研究テーマを導き出します。さらに「老年看護学特別研究1」で自らの研究テーマに関する文献レビューをもとに予備調査を通して研究目的、研究方法を明確にしていきます。2年次の「老年看護学特別研究Ⅱ」では、本研究計画書に即してデータ収集・分析を開始し、3年次の「老年看護学特別研究Ⅲ」でさらにデータ収集・分析を重ね最終的に博士論文を提出します。院生の皆さんの疑問や関心を中心に探求できるよう個別の指導を行っています。
社会活動
ケアリング・フロンティア広尾
準備中
院生・修了生の活躍
堀部 光宏
2021年度博士課程修了
私は2019年4月に博士後期課程に入学し、消化器がんの術後の後期高齢者の退院後の日常生活を見据えた看護実践を探究し、2022年3月に博士号を取得しました。現在は、看護大学の教員として、教育と研究を行う日々を送っています。
博士後期課程1年目の前半は、理論や研究方法論を学び、関連領域の文献検討などを進めました。日赤の大学院生室は、大部屋を全領域の大学院生で使用しているため、領域の異なる大学院生同士の議論や相談などが活発に行われています。私も研究方法や倫理審査書類の検討などに関して、他領域の大学院生の方々からアドバイスをいただき、有意義な時間となりました。1年目の後半から病院でのデータ収集を開始し、研究は順調に進行していましたが、新型コロナウイルスの蔓延により、研究を一時中止せざるを得ない状況に陥りました。その後は、いつ研究を再開できるのかわからない大変もどかしい日々が続きました。そのような中でも、指導教授をはじめとする多くの先生方から温かいサポートをいただきました。「人道」を実践する日赤の先生方は学生と向き合い、真摯に考えてくださります。最終的には、当初予定していた研究方法の変更を余儀なくされましたが、博士論文を完成させることができました。
「博士号は運転免許証である」と言われることがありますが、博士号は独立した研究者として、研究を遂行する基本的な能力を有することを示します。博士号取得後に研究者が研究を継続していくことによって、さらに研究能力が高まり、その重みが増していくと思います。このように考えると、現在は研究者としてのスタートラインに立ったに過ぎず、今後は、研究成果によって患者さんの生活の質の改善・社会への貢献をしていきたいと思います。
三好 恵美
2018年度修士課程修了
私は急性期病院で働く中で、高齢者に対する標準的な医療が必ずしも望ましい結果をもたらさない場面にしばしば直面し、ジレンマを感じていました。社会的にも高齢者問題が取りざたされる中、より深く学びたいという思いから大学院進学を決意しました。
大学院では、同じ志を持つ仲間とのディスカッションを通じて、異なる職場でも同様の苦労やジレンマが存在することを実感し、疲弊していた気持ちが前向きになりました。特に実習では、腹膜透析を受ける高齢者が「終わりのない戦い」と表現した言葉にスピリチュアルペインを感じ、深く心に残っています。一からやり直した看護過程では、自身の偏った視点に未熟さを痛感しました。
専門領域では、教授や先輩方と議論を重ね、「高齢者の血液透析生活に対する思い」という研究テーマに取り組みました。患者へのインタビューや分析を通じて、高齢透析患者の苦痛や生活、透析医療に対する思いを理解し、何気ない日常生活を看護師として支えていくことの重要性を再認識しました。
大学院や実習先での新たな挑戦には勇気が必要でしたが、それが私の成長につながり、修士論文の達成感は大きな自信となりました。現在は老人看護専門の資格を持ち、高齢者の尊厳を守ることに情熱を注いでいます。今後も得た知識や経験を活かし、高度実践と後進の教育に貢献していきたいと考えています。
岩永 悠季
2023年度修士課程修了
近年、医療技術の進歩は目覚ましく、高齢者に対する治療の選択肢が広がっています。その恩恵は計り知れないものの、倫理的な課題が山積しており、状況はますます複雑化しています。
果たして「看護」のあるべき姿とは、どのようなかたちなのか、それを探求し、さらに人間性豊な看護師を目指したいと考え、進学を決意しました。
修士課程1年次では、国内外の知見を参考にしながら、「歳を重ねること」の意味や老年看護学の理論に関する学びを深めました。演習では、教員や他の学生とのディスカッションを通じて、臨床で実際に関わった事例を丁寧に分析し、自分の体験を振り返ることで看護の意義を再確認することにつながりました。2年次の実習では、1年次の学びを活かしながら臨床における様々な困難や変化に対して、創意工夫しながら挑戦していくことの難しさと楽しさを経験しました。そして、研究と修士学位論文の作成を通じて、老年看護のあるべき姿を探求し続けることの重要性を深く実感しました。この全過程では、志を同じくし共に学びを重ねた方々と出会うことができました。このような経験は、私の人生においてかけがえのないものとなっています。
大学院修了後は、急性期病院に勤務し、大学院で養った思考力を活かし、高齢者看護の実践と教育に取り組んでいます。多疾患併存状態にある高齢者の苦痛緩和ケアや、認知症のある高齢者の意思決定支援に葛藤する仲間たちと共に悩み、考え、議論を重ねながらより良い看護を目指しています。高齢者の輝きが一層ますように、これからも看護を探求し続けたいと考えています。
学位論文テーマ
博士論文テーマ
- 高齢の脳卒中患者を看る妻のレジリエンス
- 急性期病院を経て療養病床で働く中堅看護師のライフストーリー
- 嚥下障害者への食事介助における看護師のわざの研究
- 新人看護師の看護実践の変化―体位変換場面を通してー
- 老年期にある親を看取った看護師の葛藤―娘として、看護師としてー
修士論文テーマ
- 回復期病棟に入院中の高齢者に対する睡眠を促す看護
- 消化器がんの診断から術後補助化学療法までの過程における高齢者の体験
- 消化管ストーマを造設した高齢者の体験 ~長期間自己管理をしている後期高齢者に焦点を当てて~
- 高齢者が血液透析をうけて生活することへの思い
- 一般病棟において認知機能低下のある高齢者の意思を捉えて関わる看護師の判断プロセス
- 急性期病院へ入院中の認知機能の低下した高齢者が院内デイケアへ参加する体験
- 急性期病院において認知機能の低下した高齢者のケアに携わる中堅看護師の感情体験
- 急性期病院に入院中の脳血管疾患高齢患者に関わる看護師の臨床判断
- 血液透析を受けている高齢患者に関わる看護師の思い-高齢患者の死にまつわる事前の意思表示に焦点を当てて-
- 在宅で生活する認知症高齢者の体験-自分自身に対する思いに焦点をあてて-
- 配偶者を看取った高齢男性介護者の体験-表出されにくい悲嘆に注目して-
- 高齢パーキンソン病患者を長期間支える家族の介護の体験