地域看護学領域

地域看護学領域 概要

地域看護学は、地域包括ケアシステム構築の中での、在宅看護、退院支援、公衆衛生看護、多職種連携といったキーワードで、地域全体における看護の役割を考えていくことを学問的に探求していきます

地域看護のおもしろさは、対象が個人、家族、グループ、組織、地域社会と多岐に渡ること、また、社会情勢や制度・政策の動きや地域特性を考慮した看護的アプローチを展開していくことです。このおもしろさを学問的に追求するために、量的研究方法や質的研究方法を用いて、研究する力と実践する力を高めることを教員一同全力でサポートします。2025年の超高齢化社会を迎えるにあたって、看護師・保健師が力を合わせて地域での看護を展開していくことのおもしろさを共有しましょう。

平成27年度から在宅看護CNSコース(38単位)がスタート!!

在宅看護CNSコース(38単位)は、2012年に認定がはじまった社会的ニーズの高い分野です。本コースは、訪問看護だけでなく、退院支援や外来看護なども含む地域全体で活躍できる人材育成をめざしています。地域における看護を開拓する先駆者となりませんか。仲間や教員と意見交換しながら、一緒に成長していきましょう。関心のある方は、地域看護学の教員にお気軽にご相談ください。

研究指導教員

石田 千絵

教授

研究を始めるとき、personal reason が研究テーマに関わることは多いです。
私は、「看護の神髄は自然治癒力を高めること」であり、最も大切なことは、「本人がどうありたいか」であると思ってきました。そこで、補完代替療法に関わる実践や研究を行ってきました。その後、身内が阪神・淡路大震災で被災し、地下鉄サリン事件に巻き込まれそうになったことから、災害時の看護・保健が研究テーマになっていきました。
現在の研究テーマは、訪問看護ステーションにおけるBCP(事業継続計画)に関わる研究です。看護職の対象者(利用者・患者・生徒/学生・家族・職員・住民…)を守るためには、対象を守るシステムが盤石であることが大切であるからです。さらに、看護職である私たち自身がそれぞれ最も大切な存在であるからです。 
地域看護学領域は、主に在宅看護専門看護師(CNS)コースと研究コース(訪問看護師、保健師、看護師他)に興味・関心の高い方々が協働して学び合う領域です。研究テーマも皆さんのpersonal reason、「本当に興味のあること」を探りながら、皆様自身の研究活動を応援いたします。

藤川 あや

教授

私が関心を持っているのは、地域における保健・医療・福祉・介護専門職の多職種連携です。各専門職がお互いに良好な関係性をつくることや、良好なコミュニケーションを意識して行動することで多職種連携が促進され、支援が必要な方に効果的なケアを提供することできます。「言うは易く行うは難し」のため、実用的な連携促進のアプローチ方法を研究しています。また、高齢者の自立した生活の継続について地域で支え合う仕組みづくりに関心があります。地域における高齢者の生活や、高齢者が他者とどのようにつながっているのかを知り、高齢者の自助と互助を活かした地域包括ケアシステムに関する研究をしていきたいと思います。
地域看護学に興味のある方、一緒に研究に取り組み有意義な時間を共有していきましょう。お待ちしております。

吉川 悦子

准教授

私は働く人の健康支援を探求する産業保健看護を専門としています。産業保健看護は、公衆衛生看護学を基盤とし、健康と労働の調和を目指し、仕事によるけがや病気を予防するための様々な支援を多職種連携により展開する学際的なアプローチを特徴としています。
 そもそも産業保健看護に興味や関心を持ったのは、私が病院看護師として勤務していた頃に遡ります。とても優秀で将来を嘱望されていた尊敬する先輩たちが、自身の体調や出産・育児などのワークライフバランスなどの理由により医療機関から去っていく現状を目の当たりにし、自分らしく、そして健康的に働き続けることができる職場環境とは何か、そのためにどのような支援ができるのか、が私の命題となりました。そしてそのことが現在の私の中心的な研究課題である「職場環境改善」へとつながっています。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、働き方は大きく変化しました。働き方が全く変化していない職種や業種であっても、先行きの見えない社会不安の中でこれまでの仕事を同じように続けることが難しい現状があります。そのため、働く人々の健康と安全をまもる産業保健看護専門職の重要性はますます高まっており、研究という視点から高度な実践の在り方への探求と社会への発信に貢献できればと考えています。病院であっても、地域であっても、働く人は存在します。すべての働く人々のQOL向上に向けて、一緒に看護を探求していきましょう。

井口 理

准教授

目には見えないけれど、私たちの健康が守られている“しくみ”は実にたくさんあります。保健師は、行政組織に複数配置されている看護の専門職として、命や健康を守る“しくみづくり”に関与できる立場です。変容し続ける社会の中で、人々の命と健康を守るしくみづくり、そのために必要な組織内外との連携・協働とその手法、保健師自らが機能を発揮し続けるための体制づくりなど、興味は尽きることがありません。
 最近では、都市部の互助機能を評価し強化するための研究、地域の保健医療福祉のハブとなり得る地域包括支援センターのBCP(事業継続計画)に関する研究、健康危機に対応するための保健所機能強化に関する研究などに取り組み、試行錯誤しています。大学院では、院生がこれまで経験してきたこと、理想と現実の狭間で葛藤している状況や現象を言語化していただきながら、論理的に思考し、研究の問いを探求できるよう伴走したいと思います。

領域の特色

地域看護学領域のカリキュラムの紹介

修士課程

地域・在宅看護学特講では、在宅療養者の看護計画の立案と実践・評価を含めた在宅看護過程の展開、保健医療福祉の諸制度やケアマネジメント、多職種連携、地域看護学に関する理論やモデル、公衆衛生看護学などをキーワードに、地域で生活するあらゆる発達段階、さまざまな健康レベルの対象者・家族、集団、組織に対する支援について、研究の基盤となり、高度な看護実践への示唆となる科目を設けています。研究コース、CNSコースともに自らの研究テーマを探索し、修士論文に取り組みます。

在宅看護CNSコース(38単位)は2012年度に認定が始まった新しい分野です。本学では、2015年度から在宅看護CNSコースを開設し、在宅看護だけでなく、退院支援や外来看護なども含めた地域包括ケアの中でリーダーシップを発揮する専門看護師を育成するカリキュラムを提供しています。

博士後期課程

博士後期課程では、看護学の探求者として、地域で生活するあらゆる健康レベル、発達段階の対象者のQOL向上に資する研究を主体的に自立して実践できることを目指します。博士後期課程の院生は、臨床現場や教育の場で仕事を継続しながら在籍している者も多く、互いに刺激を受けながら研究に取り組んでいます。

研究活動

地域看護学領域では、修士課程に研究コースとCNSコースの両方の学生が在籍しており、ともに学びあっています。そして博士課程の学生、教員も含めた相互交流を重視した学びの場や研究活動を大切にしています。博士課程では、学生・教員・外部の専門家との交流を重視した、実践的かつ幅広い学び・研究活動の場を用意し、切磋琢磨しています。

修士課程で行われている演習(地域・在宅看護学演習Ⅳ)の紹介

JA長野厚生連 佐久総合病院グループでの演習

地域・在宅看護学演習Ⅳでは、「地域づくり」に関わる学修をします。今夏は、長野県佐久市で「農民のために」を理念とする「佐久総合病院グループ」にて2日間の演習を実施しました。演習を通して、地域の歴史と住民のニーズに応じた医療/看護の展開や多職種との連携について学びました。統括看護部長他の講義に加え、地域連携室、巡回健診、小海診療所の訪問診療等に同席させていただくことで、座学では学べない地域の保健医療福祉と看護の実践を学ぶことができました。

暮らしの保健室、坂町ミモザの家での演習

訪問看護を通じて感じた個々のニーズから「暮らしの保健室」や「坂町ミモザの家」のような地域の課題解決を目指したサービスへと発展した過程を、実際に現地を訪問しながらその場の雰囲気に身を置きながら学ぶことができました。

認知症カフェでは当事者の語りから、互助の重要性を実感しました。地域住民との協力関係や、医療・福祉の多職種にとどまらず行政職・ボランティアの方々との連携で成り立つことも多くあります。超高齢社会の日本の暮らしに、看護職として何をすべきかを問い直す体験ができました。

修士課程・博士課程合同のフィールドワーク

地域看護学領域の博士課程と修士課程の学生6名でマギーズ東京を訪問しました。マギーズ東京は、がんになった人とその家族や友人がとまどい孤独なとき、自分自身の力を取り戻すための場として、英国のマギーズセンターのコンセプトに沿って建築され、2016年に開設されました。そこは、疾病の有無に関わらず立ち寄れ、自分が背負う心の荷物をふと下ろすことが出来る、優しい安心を感じられる空間でした。それを可能にしていたのは、スタッフやボランティア皆様の心のこもった出迎えと、心地良く過ごせるようにと、さりげなくもタイミングがはかられた気遣いや傾聴でした。マギーズ東京の演習に参加し、私達自身が癒される体験とケアリングとは何かについてあらためて学ばせていただきました。

在宅における実践的な事例研究会

修士課程の演習科目、地域・在宅演習Ⅲから派生した実践的な事例研究会では、開業医による在宅療養事例をベースに、地域看護学領域だけでなく、領域を超えた院生との実践的な意見交換の場を定期的に実施しています。在宅での終末期、急変事例やペインコントロール、認知症など、さまざまな状況の中で、在宅療養者・家族が安全で安楽な生活を送ることができるためのキュアとケアを統合した高度な看護実践能力の醸成を目指しています。

院生・修了生の活躍

石川孝子 岩原由香

地域看護学領域博士後期課程

二人とも修士課程からそのまま博士に進んだわけですが、地域看護学領域の魅力って何だと思いますか。

石:一言でいうと「研究するための土壌が整っている」ということに尽きると思います。領域の先生の研究に参加させていただく機会があり大規模調査ができたり地域で実践している看護職の人たちと一緒に研究ができたりします。そして、学会発表も先生方や地域の第一線で活躍する看護職の皆さんと一緒にできます。

岩:修士や博士の学位を取ることはもちろんですが、その後に、科学者の卵、研究者の卵としてやっていくために、何をどのように見て、考えていけばよいかということが学べると思います。

石:ゼミには領域の先生方も一緒に参加し、自分たちの研究について発表されるので、研究方法やプレゼンテーションの方法について学んでいくことができます。

岩:私は、修士では質の研究を行ったのですが、量の研究のエキスパートの先生方の発表を聞くことで、量の研究についても学ぶことができました。

石:研究のサポート体制も整っており、つまづいたときに、先生からいただいた優しいメールをみると今でも感動します。

岩:院生一人一人の意見を大切にしてくださり、どのような研究をしていきたいのかということについて、一緒に考えてくれます。

石:個性豊かで魅力的なメンバーがそろっており、アットホームで居心地の良い雰囲気です。

岩:一緒にいて楽しい人たちが多いのが特徴だと思います。

梅津 千香子

2014年度修士課程修了生

私は、大学病院の病棟看護師、看護師養成学校の臨地実習担当教員として、主に慢性疾患を持つ患者様のセルフケア支援をしてきました。退院後も継続して医療を要する患者様と介護を担うご家族への支援を通して、看護職が受けとめている現状と実際の患者様、ご家族のニーズとの間に差があるように感じました。目の当たりにした疑問を解決して、看護者が患者様やご家族の状況を正確に把握し、適切な看護支援を提供できるようにしていきたいと思い、大学院へ進学しました。大学院では、退院後も病気を持ちながら地域で生きる人々の生活と看護のあり方を見つめ、探究したいという思いから地域看護学領域を専攻しました。先生方の的確なアドバイスをいただいて、この先も取り組んでいきたい研究テーマを定めることができました。修士課程修了後は、大学の看護学部で助手として働いています。大学で主に担当している臨地実習指導では、病院の取り組みや地域の特性をクリティカルに捉えるようになり、クライアントの状況に応じて支援を提供する視野が広がったと感じています。また、修士課程で研究した内容を学術論文として投稿するためにさらに分析を進めています。今後も保健医療福祉を必要とする人々が希望する住み慣れた場所で日常生活を過ごすために、看護職として現状の課題把握とその解決に向けて研究方法を学び、医療提供体制の構築に貢献していけよう研鑽し続けていきたいと思っています。

学位論文テーマ

博士論文テーマ

  • 訪問看護師が織りなす終末期療養者と家族への初回訪問を基軸とした訪問看護導入期のケア
  • COPD患者の終末期における訪問看護師の支援
  • 認知症とともに生きる高齢者の体験
  • 顔の見える関係強化に焦点を当てた訪問看護師と介護支援専門員の連携促進プログラムの開発
  • 訪問看護師による終末期がん患者とその家族への死亡場所の意思決定支援: 訪問看護師の視点から
  • 高齢者が希望する在宅看取りを実現する要因
  •    

修士論文テーマ

  • 療養が必要な高齢者が過疎地域で暮らし続けることの意味:栃木県の農山村におけるエスノグラ
    フィー
  • 管理者の視点からとらえた訪問看護師の就業継続につながった職場サポート
  • 出産や育児を理由に医療機関を離職した看護師が訪問看護を続けられた体験
  • 地域包括支援センター看護師による個別支援と地域支援を連動させた地区活動
  • 壮年期にある重症心身障害者の母親への将来を見据えた訪問看護師の関わり
  • 子育て中の訪問看護師の現職場就業継続意志に関連する要因
  • 筋萎縮性側索硬化症患者の診断初期の体験
  • 小児看護未経験の訪問看護師が小児訪問看護を続けられた体験
  • 看護小規模多機能型居宅介護利用者の「自分らしい」生活
  • 訪問看護師の「寄り添う」体験
  •     

  • 訪問看護師が行う心不全患者の在宅療養継続に関する臨床判断
  • 訪問看護師が行う地域づくりの実際
  • 退院支援看護師との連携がうまくいくための病棟看護師の退院支援における役割
  • 日常的に医療的ケアを必要とする小児慢性特定疾病がある子どもの地域生活における支援ニーズの実態
  • 積極的治療の適応外となってきた悪性リンパ腫患者に対する病棟看護師の意思決定につなぐかかわり
  • 高齢者の終末期在宅療養生活における訪問看護師がかかわる場づくりと家族支援
  • 急性期病棟看護師が持つべき全人的に患者をアセスメントするための視点を身につけることへつながった過程-退院支援に着目して-
  • 在宅酸素療法導入患者の退院支援における連携・退院後の状況把握・看護師満足度に関連する要因の検討
  • 認知症独居高齢者の在宅生活継続のための地域包括支援センター看護職のかかわり
  • 都市部在住市民における終末期療養場所の意思決定に関連する要因:年代別比較
  • 後期高齢者夫婦二人暮らしの介護継続の様相―介護破綻と孤立化の危険性に焦点をあてて-
  • がん終末期患者の看取りにかかわる訪問看護師の認識-勤務継続につながる認識に焦点をあてて-